発音の間違い
子どものことばの問題で、最も標準的でよく聞かれるのは「発音がおかしい」というものです。
結論から言うと、放っておいて大丈夫なものと放っておかない方が良いものがあります。見極めが仕事の一つです。
記事の最後には、普通の言語聴覚士は言わない面白い考えを加えています^^ よろしければ、最後までお読みください。
音の発達
子どもが発音を発達させていくには、おおまかな順序があります。発音する時には、舌が器用にものすごい速さで動いています。巧緻性の極みの運動の一つです。なのでまず首が座り、体幹がしっかりしてこないと発音はできるようにはなりません。また、食べる機能と喋る機能は関係しています。上手に食べることが出来るようにならないと、喋ることはできるようにはならないのです。
そのような前提が揃った上で、言語の様々な音は、3つの掛け算で作られています。
口の形と舌の位置 × 破裂させる・摩擦させる・鼻から抜くなどの息の出し方 × 声帯を震わせるか震わせないか
私たちの口腔期間は、この3つの調節を行える楽器となっています。
最も早くに現れてくる音は、口の前の方を使う音です。前舌音、と言われます。習得が容易な音(初心者向け)というわけです。/p//b/そして/m/などがそれに当たります。口の前の方を使って、息の出し方を強く破裂させれば/p/、そこに声帯の振動を付随させれば/b/、鼻から息を抜くような形にすれば/m/です。
舌をもう少し下げまして、上の口蓋に当たるようにし息を破裂させますと/t/、それに声帯の振動を付けると/d/
摩擦するような音の出し方を使うと/s/やロングs、
口の奥の方を使いますと/k//g/ という音になります。
そして最後まで発音が難しく、子どもたちのお話をかわいい感じにさせるのが、日本語では つ や ず といった音になります。これは破裂と摩擦を同時に使うという音の出し方をするため、5歳6歳くらいでも習得が難しい子がいる音です。
「むちゅかちいの」「ちゅき」など言われると、大人はメロメロになることありますよね、直したくない、このままでいてくれ、と思うこともあります。笑 しかし、いつまでもそのままなのが心配でもあります。
これは後にも述べますが、「可愛いままでいる方がいい」。無意識ですが子どもがそう判断して(あるいは親の判断を子どものこころが拾って)習得しないようにしてる場合があります。こころは本当に目に見える色々なことを、裏で決めています。
機能性構音障害と異常な発音の誤り
つ ず がいつまでも ちゅ じゅ になる
カ行がタ行になる、ガ行がダ行になる、
などは、機能的構音障害と言われ(構音=articulation、発音)、いわば 癖 で間違っているといったような状態です。本来は正しく発音をするための、器官はそろっています。それが習慣として、違う言い方で言うことが定着しているのです。
これとは別に、器質的あるいはその他の原因で、日本語の音にはない発音の仕方を、何かの音のために使うことがあります。
声門破裂音、咽頭摩擦音などが代表的です。これは、本来口の先の方で破裂させて作るはずの音を、声門を破裂させて作る、といっためずらしい楽器の使い方をするようになる場合です。これには、口蓋裂など口の上部や唇をうまく使えず、破裂に必要な圧を十分に高められないために代償的に行う、など理由があります。
これらの異常構音は(普通そういう出し方はしない、ということで”異常”と言われています)、放っておいてもなかなか直ることはありません。
側音化構音という、その中間のような音の作り方もあります。
どの音も、その音特有の響きを持ちます。
音韻の間違い
一つ一つの音が発音が出来ても、音のつながり方によって発音の誤りが起きる場合と起きない場合があります。その音がどんな母音とつながるが、次にどんな音が来るかで言えるか言えないかが変わってくるのです。
また、単語の最初の音か、最後の音か、語中の音か、で誤り方が左右されることがあります。前後の言語環境に依存します。
それらの誤りの一貫性や特徴を見て、そして年齢的なもの、全体の発達の様子を見て、今後どのような方策を取るのが良いか考えていきます。
そして、海外で育ったりバイリンガルのお子様である場合、もう一つの言語の発音様式に引っ張られるということがあります。そのあたりも、個別に鑑みる必要があります。
いずれにせよ、子どもは自分の全体の中の一つの状況として、発音 を表しています。全体性の中で見ていくことが、何よりも大切です。発音だけの直す直さないに、こだわらない方が良いのです。
発音の誤りはこころを現す
発音の状況や問題は、その子の全体のより大切な ナニカ を現している場合があります。風邪をひた時、症状として鼻が出ますよね。けれど鼻を止めたら風邪が治るかというとそういうわけではありあせん。身体は風邪のウィルスと戦うために、鼻を出すという症状を起こしています。大切なのは、風邪のウィルスを退治することで身体がウィルスに勝つことです。鼻を止めることばかりに夢中になっていると、目的を見誤ります。
発音にも似たところがあります。その子のより大切なメッセージを、含んでいることがあります。その子の現れてきた特質やお母さんとの関係を、音の誤り方が表している場合があるのです。
例えば、か行が行、/k/音や/g/音が後に続く母音に左右されず、一貫して出ないお子さんがいらっしゃったとします。か行が行は、口の奥で作る音です。そして強い破裂を作る必要があります。はっきりと、意思を表明するということと、関係しています。
前に自分を押し出す力が弱いお子さんでは、か行の音が作りづらいということが起きることがあります。優しい子、と言ってもいいかもしれません。その場合、/k/という音を作る訓練をするよりも、自分を前に押し出すような活動をして様子を見ていると、自然と変化してくることがあります。逆に言うと、か行が行を出すセラピーをすることで、自分を主張できるようになるということも起こります。
あいまいな音が作れない、などその子の特徴を反映したような、音や誤り方が見られることがあります。赤ちゃん言葉が抜けない場合、実は保育園に行っているなどの環境で、もっとお母さんに甘えたいという気持ちがあったりします。兄弟が生まれたことへの葛藤がある場合もあるでしょう。そのような場合、音だけをいじってしまうとその子の特徴に気づくチャンスをみのがしてしまったり、別の症状で出てしまったりする可能性があります。
こころと言葉は、密接に関係しています。自分を形作っていきます。
どのような状況でどのような音が出ないのか、わかりやすく検査をするための日本語でのバッテリー(検査法)があります。色々な物の名前を言えるようになる、3~4歳くらいから可能です。
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