日本人は、人の気持ちを理解するのがうまいのか?
日本人の思いやりや優しさ、おもてなしのこころというのは、どんなところからきているのでしょうか。今年(2024)のパリオリンピックでは、多くの選手が4年前の日本でのオリンピックとの、選手村との違いを訴えていました。オリンピックの代表の人たちに敬意を払い、最高のパフォーマンスをしてもらえるよう、居住空間に気配りをする。日本人には当たり前のことかもしれません。しかしそれは海外では当たり前ではないようです。そこに滞在した人が、どんな体験をすることになるのか、想像するのはどんな能力でしょうか。
それを子育てやこころの発達から考えるのが、今日のテーマです。
メンタライゼーションと共感
相手がどんな体験をしているのかに、思いを馳せ想像力を使う。これはメンタライゼーションと言われる能力です。0-1歳の子育てには欠かせません。子どもが何故泣いているのか。お腹がすいたのかおむつなのか、眠いのか暑いのか。姿勢がいやなのか。これらは大人が慮って解決するしかありません。当たり前ですが本人には解決できなからです。これまでの流れを考えて、文脈を考えて相手の状態を推測していく。この体験が薄いと、相手の立場を想像する力が、弱くなります。
日本では、母と子が一緒にいる時間が欧米より長いことが言われています。欧米ではすぐにベッドや部屋を別にして、赤ちゃんは泣いても朝が来るまで放っておく、赤ちゃんもその環境に適応するという子育て方法を取ります。しかし日本では、母と子が一緒にいる期間が長いのです。肌と肌をくっつけて、おんぶや最近では抱っこ紐などを使いながら、作業中でも母が子とくっついていることが文化としてありました。
メンタライズと似ているけど違うものとして、共感があります。共感とは、二人の人間がいて、「私はこうだけど、きっとあなたはこうなんだね」というように分けて想像力を使うことです。二人の人間が別に存在していることが前提となっています。従って、二人が違っていたとしても当たり前、それは当然起こりうることなのです。欧米ではこれを前提とした子育てが、早いうちから行われています。
母と子が一体である時間。相手の心に入り込むかのような心が働き、相手の心として自分の心を使う。自分が育てられる時にそれをやってもらっているので、自然に自分が子育てをする時にもそうしてしまう。そういう形で受け継がれてきたのだと思います。
何故欧米人はハグをするのか
日本では、挨拶の時にハグをすることは通常あまりありません。しかし、欧米では一般的です。
これはかえって小さかった頃に、身体接触を十分に行わず母親と早い時期に切り離されるため、相手への信頼や親しみを、このような形で表現するようになったのではないかと言われています。
相手が解決できないことを解決してあげるのが、メンタライズの力。しかし、いつまでもそれを使っていると日本独特の文化 甘え が今度は悪い方に作用し始めます。甘えは気持ちの良いものです。人にやってもらえるのですから。しかし、それではいつまでも自分でやろうという気持ちが育ちません。おおむね1歳半~2歳くらいから、自分でやってみて自分で結果を体験する、ということを子どもは体験として求めるようになってきます。
やってみた、失敗する、それでお母さんのところにまた戻る、お母さんに気持ちを分かってもらう、それでまた挑戦する。その繰り返しで自立をしていきます。
しかしその時にいつまでも、ああ失敗しちゃったのね、お母さんが代わりにやってあげるわ☆と、メンタライズを使ってあたかも母と子が一人の人間かのように引き取っていると、子ども自身が自分の欲求に基づいてトライ&エラーしてみる、ということが出来なくなってしまいます。
子どもの自立を育てるのは、共感です。二人の人間である、ということをはっきりさせます。「あなたは悲しいのね。でもお母さんは信じているし大丈夫だよ。だからもう一度やってごらん。」ここで一緒に悲しくなってしまうお母さんが、最近多いようにお見受けします。そして自分が悲しかったり自分の子どもが悲しんでいるのを見るに堪えないので、子どものこころを守ったり育てたりするというより、自分を守るために手を出してしまうのです。
この時に必要となってくるのは、欧米人のメンタリティ、別の人間として扱う、ということになるのではと思います。ハグをして、また送り出す力です。
様々な国での、人との在り方
欧米人は自分の身を守るために、相手に関心を持たない。そしてアラブの人はそもそも自分と関係がないと思う、という話を聞いたことがあります。
このように様々な国のメンタリティを比べてくると、日本人の独特の相手の心に自然と入り込んでしまう能力、相手のことを自分の心を使って考えてしまう能力というのは、今後の地球規模での問題を解決していく時に、独特の役割を果たしていくかもしれませんね。
メンタライズが悪い方に出ると、相手を取り込んでいくという方向に動きます。母親が相手を取り込んで動けなくしてしまう。同じでないと気が済まないというのは、日本人の集団意識として有名ですね。
メンタライズと共感を、意識して使い分けてゆけるとよいと思います。
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